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最終確認日:2026.10.02(本文の法令・裁判所資料と照合した日)
この記事でわかること
- 支払督促申立書の「請求の原因」が、申立書のどこにあり、何を書く欄なのか
- 裁判所の書式(売掛代金)が求めている記載項目と、確認しておく取引記録
- 遅延損害金を合わせて請求するときに確認する事項(法定利率・起算日)
- 申立て後に督促異議が出た場合・出なかった場合の流れと期間
目次
支払督促は、債権者の申立てを受けた簡易裁判所の裁判所書記官が、債務者に金銭の支払を命じる手続です。書記官は債務者の言い分を聞かずに支払督促を発します(民事訴訟法386条1項)。審査は申立書の記載をもとに行われるため、申立書のなかでも「請求の原因」の書き方が手続の出発点になります[1]。
この記事では、売掛金(商品の売買代金)の未払いを例に、裁判所が公開している書式に沿って「請求の原因」に何を書くのかを整理します。個別の取引について何をどう書くべきかを判断するものではありません。
01「請求の原因」は何を書く欄か
裁判所が公開している支払督促申立書は、申立書の本体、当事者目録、「請求の趣旨及び原因」の別紙で構成されています[2]。このうち別紙に書く2つの欄は、役割が次のように分かれています。
| 欄 | 書く内容 | 売掛金の場合の例 |
|---|---|---|
| 請求の趣旨 | 債務者に支払を求める金額 | 元本(未払いの代金)、遅延損害金、申立手続費用 |
| 請求の原因 | その金額を請求できる根拠となる事実 | いつ、誰と誰の間で、何を、いくらで売り、いくらが支払われていないか |
支払督促には、請求の趣旨と原因がそのまま記録されます(民事訴訟法387条1項2号)。裁判所の案内でも、支払督促を受け取った人に向けて「申立人の言い分は『請求の原因』の欄に書かれています」と説明されています[3]。つまり請求の原因は、書記官が審査する材料であると同時に、債務者が読んで異議を出すかどうかを決める文章でもあります。
02売掛代金の書式が求めている記載項目
裁判所は、事件の種類ごとに支払督促申立書の書式を公開しています。2026年5月版の「支払督促申立書(売掛代金)」では、請求の原因が次の構成になっています[4]。
裁判所書式「支払督促申立書(売掛代金)」請求の原因(要旨)
1 債権者(〇〇業を営む者)は、令和〇年〇月〇日、債務者(〇〇業を営む者)との間で、継続的売買に係る基本契約を締結した。(1)目的物 (2)支払条件(締め日・支払日・その他)
2 債権者は、令和〇年〇月から令和〇年〇月までの間、債務者に対し、別紙のとおり上記の商品を売り渡した。その代金は合計〇〇円である。(債務者は、このうち〇〇円のみ支払った。)
別紙:年月日/品目/数量/引渡日/代金額/支払額
書式の項目を、記入の前に確認しておく取引記録と対応させると次のようになります。
| 書式の項目 | 書く内容 | 確認する記録の例 |
|---|---|---|
| 当事者の業種 | 債権者・債務者がそれぞれ営む事業 | 相手の登記事項証明書、自社の登記 |
| 基本契約 | 契約を結んだ日、目的物 | 取引基本契約書、取引開始時のやり取り |
| 支払条件 | 締め日・支払日 | 契約書の支払条項、請求書の記載 |
| 売渡しの期間と合計 | 売り渡した期間と代金の合計額 | 発注書、納品書、受領書、請求書 |
| 一部の支払 | すでに支払われた金額 | 入金記録、消込の記録 |
| 別紙の一覧 | 取引ごとの日付・品目・数量・引渡日・代金額・支払額 | 上記の記録を取引ごとに並べたもの |
基本契約がない取引の場合
売掛代金の書式は、継続的売買の基本契約があることを前提にした文例です。基本契約を結ばずに単発の注文で取引した場合は、書式の文言をそのまま使えないことがあります。裁判所は売買代金や汎用の書式も公開しています[2]。【要確認:基本契約がない単発の取引で、売掛代金の書式を修正して使うのか、売買代金・汎用の書式を使うのか。裁判所の公開資料ではどちらを選ぶべきかの説明を確認できなかったため】
支払期日が来ていること
支払督促で請求できるのは、すでに支払期日が来ている金銭などに限られ、これから期日を迎えるものは対象外であると、裁判所の説明資料に書かれています[5]。請求の原因では、支払条件(締め日・支払日)を書くことで、請求する代金の支払期日がすでに過ぎていることを示します。
一部の入金がある場合
書式には「債務者は、このうち〇〇円のみ支払った」という選択欄があります。請求の趣旨に書く元本は、代金の合計から支払額を引いた残額です。別紙の代金額・支払額の合計と、請求の原因の合計額、請求の趣旨の金額が一致しているかを、提出前に照合してください。
03遅延損害金を合わせて請求するとき
書式の請求の趣旨には、元本に対する遅延損害金を「支払督促送達日の翌日」または指定した日から、完済まで年〇%の割合で求める欄があります[4]。記入の前に確認する事項は次の3つです。
(1)利率
金銭の支払が遅れた場合の損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率で決まり、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によります(民法419条1項)。法定利率は年3%で、3年ごとに見直されます(民法404条2項・3項)。法務省は、2026年4月1日から2029年3月31日までの期間も法定利率は年3%のまま変わらないと公表しています[6]。契約書で遅延損害金の利率を定めている場合は、その条項を確認してください。
(2)起算日
支払期日が決まっている債務は、その期日が来た時から遅滞の責任が生じます(民法412条1項)。書式では起算日として「支払督促送達日の翌日」と特定の日付のどちらかを選びます。特定の日付を選ぶ場合は、その日付が請求の原因に書いた支払条件と矛盾しないようにします。【要確認:起算日を支払期日の翌日とする場合に、取引ごとに支払期日が異なるときの書き方(取引ごとに起算日を分けるか)について、裁判所の記載例では確認できなかったため】
(3)申立手続費用
書式の請求の趣旨3には「申立手続費用」の欄があり、申立書の本体で内訳として申立手数料、申立書作成及び提出費用、資格証明手数料を書くようになっています[4]。
04書式の入手先・申立先・手数料
- 書式と記載例:裁判所ウェブサイトの「支払督促で使う書式」に、売掛代金・売買代金・汎用などの申立書と、汎用の記載例(PDF)が掲載されています[2]。
- 申立て方法:2026年5月21日以降は、紙の申立書に加えて、民事裁判書類電子提出システム(mints)または督促手続オンラインシステムで申し立てることができます。弁護士等の訴訟代理人は電子申立てが義務付けられています[1]。
- 申立先:債務者の住所地などを管轄する簡易裁判所の裁判所書記官です(民事訴訟法383条1項)。事務所・営業所がある相手に対し、その事務所・営業所の業務に関する請求をする場合は、その所在地を管轄する簡易裁判所にも申し立てられます(同条2項1号)。
- 手数料:訴えを提起する場合の手数料の2分の1の額に、定額(書面申立ては2,700円、電子申立ては2,500円)を加えた額です(民事訴訟費用等に関する法律 別表第一 11の項)。以前は別に納めていた郵便費用は、申立手数料に一本化されました[1]。裁判所の手数料額早見表では、請求額10万円の場合、書面申立てで3,200円、電子申立てで3,000円です[7]。
- 添付書類:当事者が法人の場合は、登記事項証明書が必要です[1]。
なお、裁判所の説明資料には、裁判所は中立・公正な立場にあるため、主張や法律構成についての助言はできないと書かれています[5]。書き方の相談先としては、弁護士、司法書士、法テラスが案内されています。
05記載でつまずきやすい点
| つまずきやすい点 | 提出前に確認すること |
|---|---|
| 金額が合わない | 別紙の合計、請求の原因の合計、請求の趣旨の元本が一致しているか。消費税や振込手数料の差額を含めているか。 |
| 支払期日を特定できない | 締め日・支払日の合意が契約書や請求書に残っているか。【要確認:支払条件が書面に残っていない場合の書き方。過去の支払実績から推認した条件を書いてよいかは、事案ごとの判断になると考えられるため】 |
| 複数の取引をまとめる | 別紙の一覧で、取引ごとに日付・品目・金額を特定できているか。 |
| 相手の表示が不正確 | 法人は登記上の商号・本店所在地・代表者名で書いているか。屋号しかわからない個人事業主は、氏名と住所を確認できているか。 |
| 相手の住所が不明 | 支払督促は、公示送達によらずに送達できる場合に限って発せられます(民事訴訟法382条ただし書)。相手の所在がわからない場合は、この手続を使えません。 |
相手が取引の内容や金額を争っている場合は、次の章で説明するとおり、督促異議によって訴訟に移ります。そのため、請求の原因に書いた事実を、契約書・納品書・請求書などで裏付けられるかも確認しておく必要があります。
06申立て後の流れと期間
- 審査と発付:裁判所書記官が申立書を審査し、支払督促を発します。債務者には支払督促が送達され、債権者には発付の通知が届きます[1]。
- 督促異議(2週間):債務者は、支払督促を受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てることができます。異議が出ると、請求額に応じて簡易裁判所または地方裁判所の訴訟手続に移ります(民事訴訟法395条)。この場合、債権者は訴え提起の手数料との差額を追加で納めます[7]。
- 仮執行宣言の申立て(30日以内):異議が出なかった場合、債権者は、支払督促の送達日の翌日から起算して2週間が過ぎた日の翌日から30日以内に、仮執行宣言の申立てをします[1]。30日以内に申し立てないと、支払督促は効力を失います(民事訴訟法392条)。
- 仮執行宣言付支払督促の送達:仮執行宣言が付されると、債権者は強制執行の申立てをすることができます[1]。
- 確定:債務者は、仮執行宣言付支払督促を受け取ってから2週間以内であれば、なお督促異議を申し立てられます。異議がなければ、支払督促は確定判決と同一の効力を持ちます(民事訴訟法396条)。
仮執行宣言の申立てについては、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一に手数料の項目がなく、申立手数料はかかりません(同法 別表第一)。督促手続オンラインシステムのよくある質問では、2026年5月21日以降に申し立てた支払督促事件は郵送料の納付が不要で、それより前に申し立てた事件は、その後の仮執行宣言の申立てでも郵送料が必要と案内されています[8]。【要確認:書面で申し立てた支払督促事件で、仮執行宣言の申立て時に郵便費用などの追加の納付が一切不要か。オンラインシステムの案内では確認できたが、書面申立ての案内では確認できなかったため】
07時効が近いときに確認すること
売掛金などの債権は、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年のいずれか早いほうで時効により消滅します(民法166条1項)。
- 支払督促:申立てによって、手続が終わるまで時効の完成が猶予されます。確定判決と同一の効力を持つもので権利が確定すると、時効が更新され、その時から新たに進行を始めます(民法147条1項2号・2項)。
- 権利が確定せずに終わった場合:手続が終わった時から6か月を経過するまで、時効の完成が猶予されます(民法147条1項かっこ書)。【要確認:仮執行宣言の申立てをせずに支払督促が失効した場合(民事訴訟法392条)に、この6か月の猶予がどのように適用されるか。条文からは読み取れるが、解説資料で確認できなかったため】
- 内容証明郵便などによる催告:催告の時から6か月を経過するまで時効の完成が猶予されますが、猶予中に再び催告しても猶予は延びません(民法150条)。
時効がいつ完成するかは、支払期日や、その後の一部入金・債務の承認の有無によって変わります。時効が近い場合は、早めに弁護士等の専門家に確認してください。
まとめ
- 請求の原因は、請求の趣旨に書いた金額を請求できる根拠となる事実を書く欄で、債務者が読む文章にもなります。
- 売掛代金の書式は、基本契約・支払条件・売渡しの期間と合計額・一部の支払・取引一覧で構成されています。
- 仮執行宣言の申立てには30日の期限があり、過ぎると支払督促は効力を失います。
出典一覧
- 裁判所「支払督促」
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_22/index.html (2026年10月2日確認) - 裁判所「支払督促で使う書式」
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_siharaitokusoku/index.html (2026年10月2日確認) - 裁判所「簡易裁判所の民事事件Q&A」
https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kansai/index.html (2026年10月2日確認) - 裁判所「支払督促申立書(売掛代金)」(2026年5月版・Word)
https://www.courts.go.jp/assets/202605shiharaitokusokumoushitatesyourikakedaikin.docx (2026年10月2日確認) - 千葉簡易裁判所「支払督促」説明資料(2024年作成。郵便切手の納付など、2026年5月21日より前の制度による記載を含む)
https://www.courts.go.jp/chiba/vc-files/chiba/2024/kansai/202409175-1shiharaitokusokusetsumei.pdf (2026年10月2日確認) - 法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00366.html (2026年10月2日確認) - 裁判所「手数料額早見表」(PDF)
https://www.courts.go.jp/assets/tesuuryo_hayami.pdf (2026年10月2日確認) - 督促手続オンラインシステム「よくある質問」
https://www.toku-on.courts.go.jp/GA0113.html (2026年10月2日確認) - e-Gov法令検索:民事訴訟法(平成8年法律第109号)382条・383条・386条・387条・392条・395条・396条/民法(明治29年法律第89号)147条・150条・166条・404条・412条・419条/民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第40号)別表第一
https://laws.e-gov.go.jp/ (2026年10月2日確認)